
英語の時間へようこそ。フランス語で「ローズ・ド・メ( Rose de Mai )・五月のバラ」と言われるように、バラが美しい季節。3学期制の学校の高校生にとっては、5月といえば1学期の中間テスト。テスト範囲が「時制」という高校生たちと話していると、「現在完了がよくわからない」という声が多いです。
現在完了(have +過去分詞)は、表面的な日本語訳だけでは判断しづらいのです。学校のテスト対策なら、コツがわかれば何とかなります。例えば 回数 を表す語句があれば現在完了で、I ( ) Paris three times. の( )に入るのはどれ?
① visit ② visited ③ have visited ④will visit
というテスト問題なら、「3回」と回数があるから③の have visited が正解、と単純な出題がほとんど。「パリを3回訪れたことがある」と訳され『経験を表す』と理解すればテスト範囲はOKです。
ところが、実際の英語では I visited Paris three times. 「パリを3回訪れた」も存在し、過去形でも回数は表せるのです。
では、実際の英語で現在完了を使うのはどんな場合なのか。
現在完了を使う場面
これは私の個人的な見解ですが、私が思うに、現在完了は「現在」の仲間で、 have(has)で「今ここに持っていること」を表すのではないかと。過去のことを振り返り、「だから今」を表すのだと思うのです。
例 I visited Paris three times. (3回パリに行ったという事実だけ)
I have visited Paris three times. (だから今パリの話をしたい)
「春が来た」は Spring has come. となります。春が来て「だから今 あたたかくなった」「だから今 花が咲き始めた」など、寒い冬を振り返って「今」を言いたい場合に、Spring came.(過去形)は合わないわけです。
現在形でもなく、過去形でもなく、現在完了が合う場面。それは、学校の教科書よりも、映画やドラマのセリフの方がわかりやすいと思います。その状況がわかるので、リアルに感じることができるからです。
たまたまテレビをつけたら放送中で、少しだけ見たアメリカのドラマ。タイトルは思い出せないのですが、「やっぱり現在完了だよね」と印象に残ったセリフがいくつかあります。
その1つは、高校生カップルの「彼」が、遠く離れた州の大学を受験しに行っている状況で、その大学に入学が決まれば遠距離恋愛になるため、「彼女」は気が気でない。それを知っている友人が「彼から連絡はあった?」と聞く場面。彼女はこう答える。
“He hasn’t called me yet.” 「まだ電話がないの」
He didn’t call me yet.(過去形) ではなく、 hasn’t called me… (現在完了)で言っているところに、彼女の「今それが気がかりで」「ずっと心配で」という気持ちが現れています。
もう1つも恋愛に関してなのですが、こちらは大人の男女。美しい未亡人と出会った誠実な独身男性。二人はお似合いだという展開。彼女の人柄も良く、意を決して今日こそ交際を申し込もうと彼女を訪ねた状況。男性が「ご主人が亡くなってどのくらい経つのですか?」と聞くと、彼女の答えが、
” He has been dead for five years.” 「5年です」
彼は、このセリフを聞くと、交際を申し込む言葉を呑み込んで、帰って行くのでした。
もし 彼女が、He died five years ago. 「5年前に亡くなった」と過去形で言っていたなら、彼は交際を申し込んだだろうと思われる場面でした。
日本語だけ見たら、どちらも「5年」なのですが、過去形は「過去の事実」を述べるだけで「今は関係ない」のに対して、現在完了は「だから今」なのです。彼女が現在完了で言ったということは、5年が過ぎても彼女の心は今も亡き夫でいっぱいだということ。「だから今、誰とも付き合う気にはなれない」という彼女の気持ちがにじみ出ているセリフでした。
ダウントンアビー シーズン2 から

タイトルさえわからないドラマでは、読者の皆さんがその場面を見ることはできませんよね。そこで、イギリスの人気ドラマ「ダウントン・アビー」から現在完了のセリフを1つ紹介させていただきます。シーズン2は、第一次世界大戦もあり、重たい話が多い中、グラニー(おばあ様)バイオレットのこのセリフが、笑いをもたらし、緊迫した場面をなごませてくれるのでした。
伯爵家の長女メアリーは、マシューと愛し合っていますが、いろいろ事情があって、ふさわしくない相手(リチャード)と婚約してしまう。高級な調度品が置かれた書斎で、マシューとリチャードは殴り合いになってしまい、マシューがリチャードを殴ったはずみで大きな花瓶が倒れて床に落下、割れてしまう。花は(水は)入っていなかったと思います。
花瓶のことをお詫びするマシューに、バイオレットが「現在完了」で言います。
Matthew: Sorry about the vase.
Countess Violet: Oh, don’t be. Don’t be. It was a wedding present from my frightful aunt. I have hated it for half a century.”
マシュー「花瓶、申し訳ありません」
バイオレット「いいのよ、気にしないで。大嫌いな伯母から(私の)結婚祝いに贈られた品で、半世紀もの間ずっと嫌いな花瓶だったの」
名詞 frightは「恐怖」を表し、その形容詞 frightfulは「恐ろしい、非常に不愉快な」の意味があります。ただの伯母(叔母?)ではなく「すごくイヤな親戚からもらって仕方なく飾ってあった花瓶」と伝えることで、高級な花瓶を壊して申し訳ないと思っている相手を気遣う配慮が感じられます。本当に、好きになれない花瓶だったのでしょう。なぜなら、気に入っていて大切な花瓶なら、伯爵の書斎には置かず、バイオレットは自分の住まいへ持って行ったと思えるから。
現在完了 I have hated it for half a century.
「50年も(今も)、その花瓶を嫌いなの。だから今、その花瓶のことを申し訳なく思わなくていい」という、マシューの気持ちを楽にする意図が感じられます。
嫌いな相手でも親戚付き合いをしなくてはならない建前(一般人でもそうなのだから、貴族ならなおさら)と、本当はイヤだったのというホンネのセリフに視聴者も共感。それにしても50年も、その花瓶を見るたびに嫌いな人を思い出していたなんて。この花瓶が壊れたシーンは、伝統と格式を重んじ、そのために耐える時代が変化することを象徴しているかのよう。貴族も、もっと軽やかな新時代に移り変わる時ですよ~と感じさせる場面でもあります。
全4分ほど。バイオレットが書斎に入る3’29あたりからご覧ください。
リチャードが「もうお目にかかることはないと思います」と挨拶すると、普通は「そんなこと言わないで」など、心にもない社交辞令で口先だけ引き留めようとしたりするものですが、バイオレットは冷静に言います。「約束できる?」 孫娘(メアリー)を大事に思うからこそ、嫌われてもかまわない、社交辞令ゼロの言葉です。
Sir Richard:I’m leaving in the morning Lady Grantham. I doubt we’ll meet again.
Countess Violet: Do you promise?
リチャード「朝にこちらを発ちます。もうお目にかかることはないでしょう」
バイオレット「約束できる?(→約束しなさい)」
『( go / come / leave などの)現在進行形が、近い未来を表す』も、「時制」のテストで出題されやすいポイントの1つ。I’m leaving.「出発するところ、その場を去りつつある最中」が今この瞬間ではなく、翌朝・来週などの近い未来のことを表すのは、それが動き出している、進行中だと「話者が」思うから。
「できる」は can だと思いがちですが、英語のドラマを見ていると、例えば「こんなの信じられない!」と言う場面で I don’t believe this! と、I can’t ではなく don’t を使っています。
doubt(ダウト)は「~でないのではと疑う」
同じ「疑う」という動詞でも、 suspect 「~であるのではと疑う」と区別しましょう。
I doubt he stole that. 彼はそれを盗んでいないのでは?と疑う。
I suspect he stole that. 彼がそれを盗んだのでは?と疑う。
だから「容疑者」は suspect(名詞)と呼ばれます。発音は。動詞は「ペ」を強くサスペクト、名詞は「サ」を強くサスペクトとなります。
英語は学問という以前に言葉ですから、どういう状況でその言い方が使われるのかを学ぶのに、映画やドラマはとてもよいと思います。ダウントンアビーでは、イギリス発音というだけでなく、上流階級の話す英語も聞くことができ、また、20世紀初頭の歴史の勉強にもなります。
なぜここで現在完了で言うのかな?と考えることで「想像力」も鍛えられ、自分の人生もより豊かになると思います。皆さんの毎日がさらに心豊かでありますように。
「現在 今この時( present )」は、宇宙からの贈り物。今日もありがとう。